1 経営者における相続の特殊性
経営者の相続は、一般の相続に比べて複雑な事情を伴います。特に、中小企業庁の調査によれば、日本の企業の約99%が中小企業であり、その多くが同族経営です。経営者が亡くなった場合、会社の株式や事業用資産が相続の対象となることがあります。特に突然亡くなり、相続人間で分割をめぐる争いが生じれば、事業の継続に重大な支障をきたすリスクがあります。
2 遺言書の役割
遺言書は、被相続人の意思を法的に反映できる唯一の手段になります。経営者が遺言書を作成することで、以下の効果が期待できます。
- 株式や事業用資産の承継先を明確にできる
経営に必要な株式を後継者に集中させ、経営権の分散を防ぐことができます。 - 相続争いの予防
相続人間での不公平感を軽減し、家族が争うことを防止することができます。 - 事業承継税制との連携
適切な遺言と併せて活用することで、相続税・贈与税の軽減措置を受けやすくなります。
3 公正証書遺言で作成するべき
遺言は、自筆で作成することもできますが、複雑な事情を伴うことが多い経営者は、公証人の関与により作成される公正証書遺言で作成するべきです。公正証書遺言で作成することで、形式不備による無効リスクを低下させることができ、遺言の存在や内容が確実に証明されるため、相続開始後のトラブル防止に効果があります。
4 遺言がない場合のリスク
遺言を残さずに亡くなると、法定相続分に基づいて遺産分割協議が行われます。経営者の場合には、その結果として、後継者以外の相続人に株式が分散し、経営の意思決定が停滞することがあります。また、最悪の場合は会社の存続自体が危うくなることもあります。
このように経営者は、遺言書を作成するべき理由があります。
5 弁護士のサポートの必要性
遺言書の作成にあたっては、法的な有効性の確保だけでなく、相続税・会社法・労務関係など多角的な視点が必要です。弁護士に相談することで、遺留分への配慮や、事業承継計画と整合性のある遺言内容を設計することなどが可能になります。