犯罪被害者の損害賠償命令制度とは〜刑事裁判の手続を利用した損害賠償請求〜

犯罪の被害に遭った場合、加害者に対して、治療費や慰謝料などの損害賠償を請求することができます。

しかし、通常の民事裁判を起こすには、被害の事実を一から証明する必要があり、時間や費用、精神的な負担が大きくなりがちです。

このような負担を軽くするため、刑事裁判の手続の成果を利用して、損害賠償を請求できる「損害賠償命令制度」が設けられています。

そこで、今回は、法務省などの公表資料をもとに、損害賠償命令制度について、解説していきます。

犯罪被害による損害賠償請求についてお悩みの方は、当事務所までご相談ください。

1 損害賠償命令制度とは

損害賠償命令制度は、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」に定められた制度で、平成20年12月から始まりました。

法務省の説明によれば、この制度は、刑事裁判の起訴状に記載された犯罪事実に基づいて、その犯罪によって生じた損害の賠償を請求するものです。

申立てを受けた刑事裁判所は、刑事事件について有罪の判決があった後、刑事裁判の訴訟記録を証拠として取り調べ、原則として4回以内の審理期日で審理を終え、損害賠償命令の申立てについて決定をします。

つまり、刑事裁判を担当した裁判所が、そのまま損害賠償についても判断するという仕組みです。

2 対象となる事件と申立てができる人

⑴ 対象となる事件

法務省の「被害者等支援制度の対象罪名一覧」によれば、損害賠償命令制度の対象となるのは、次のような罪です。

  • 殺人、傷害、強盗致死傷、危険運転致死傷など、故意の犯罪行為により人を死傷させた罪
  • 不同意性交等、不同意わいせつなどの性犯罪
  • 逮捕及び監禁の罪
  • 略取、誘拐、人身売買の罪
  • 上記の性犯罪、逮捕・監禁、略取・誘拐・人身売買の犯罪行為を含む他の罪
  • 上記の罪の未遂罪

⑵ 申立てができる人

申立てができるのは、被害者又はその一般承継人(相続人など)です。被害者が亡くなった事件では、相続人である遺族が申し立てることになります。

3 手続の流れ

法務省の説明をもとに、手続の流れを整理すると、次のとおりです。

  1. 刑事事件が起訴される
  2. 被害者が、刑事事件を担当している裁判所に、損害賠償命令の申立書を提出する(申立ては、起訴された時から刑事裁判の審理が終結するまでに行う必要があります)
  3. 刑事裁判で有罪の判決が言い渡される
  4. 同じ裁判所が、刑事裁判の訴訟記録を証拠として取り調べ、原則4回以内の審理期日で審理する
  5. 裁判所が、損害賠償命令の申立てについて決定をする
  6. 決定に対して当事者のいずれかから異議の申立てがあった場合には、通常の民事訴訟の手続に移る

なお、通常の民事訴訟の手続に移った場合でも、審理に必要な刑事裁判の訴訟記録は、民事の裁判所に送付されることとされています。

4 損害賠償命令制度のメリット

法務省は、この制度の利点として、次のような点を挙げています。

  • 刑事手続の成果を利用するため、被害の事実を証明しやすく、損害額を中心とした審理となるので、簡易・迅速に手続を進めることができる
  • 申立手数料が2,000円であるなど、利用しやすい
  • 通常の民事訴訟の手続に移った場合でも、訴訟記録をコピーして民事の裁判所に提出する手間が省ける

通常の民事裁判では、請求する金額に応じて手数料が高くなり、被害の事実についても被害者側が証明していく必要があります。損害賠償命令制度は、こうした負担を軽くできる点に大きな特徴があります。

5 注意点

⑴ 対象とならない事件がある

損害賠償命令制度は、全ての犯罪で利用できるわけではありません。例えば、窃盗や詐欺などの財産犯や、過失運転致死傷などの交通事故に関する罪は、対象罪名一覧に含まれていません。これらの事件では、通常の民事訴訟などによって損害賠償を請求していくことになります。

⑵ 申立てには期限がある

申立ては、刑事裁判の審理が終結するまでに行う必要があります。判決の言渡し前であっても、審理が終結した後は申し立てることができないため、早めに準備を進めることが大切です。

⑶ 異議があれば通常の民事訴訟に移る

決定に対して、加害者側から異議が出された場合には、通常の民事訴訟の手続で審理が続くことになります。

⑷ 決定を得ても、回収できるとは限らない

損害賠償命令の決定を得ても、加害者に支払能力がなければ、実際に賠償金を回収できないこともあります。令和7年版犯罪被害者白書では、平成27年に日本弁護士連合会が行った調査において、判決等を得たにもかかわらず損害賠償を回収できなかった理由として、債務者の資力不足等が挙げられたことが紹介されています。回収の見通しについても、あわせて検討しておく必要があります。

6 利用状況

令和7年版犯罪被害者白書によれば、損害賠償命令制度は、平成20年12月の制度導入以降、令和6年末までに4,708件の申立てがあり、このうち4,559件が終局しています。

終局した事件の内訳は、次のとおりです。

内訳件数
認容2,049件
和解1,077件
終了(民事訴訟手続への移行)622件
取下げ534件
認諾180件
却下64件
棄却9件

また、令和6年の新たな申立て(新受)は391件で、令和2年から令和6年までの5年間で最も多くなっています。認容や和解で終わる事件が多く、制度が一定程度活用されていることがうかがえます。

7 弁護士に依頼するメリット

損害賠償命令の申立てでは、申立書の作成や損害額の算定、審理期日での主張など、専門的な対応が必要になります。弁護士に依頼することで、次のような対応を任せることができます。

  • 制度の対象となるか、通常の民事訴訟とどちらが適しているかの検討
  • 治療費、休業損害、慰謝料などの損害額の算定と申立書の作成
  • 審理期日での主張や、加害者側との和解交渉
  • 異議が出された場合の民事訴訟への対応

また、法務省は、損害賠償命令制度の利用にあたり弁護士に依頼することができるとしています。

8 まとめ

損害賠償命令制度は、刑事裁判の成果を利用して、被害者の負担を抑えながら損害賠償を請求できる制度です。一方で、対象となる事件が限られていることや、申立てに期限があることなど、注意すべき点もあります。

犯罪の被害に遭い、加害者への損害賠償請求を考えている場合には、刑事裁判が進んでいる段階から、早めに弁護士に相談することが大切です。

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参考資料