インターネット上の誹謗中傷と名誉毀損-個人と法人を守るための法的対応

1 はじめに

SNSや掲示板、口コミサイトの普及により、誰もが情報発信をすることが可能になりました。その一方で、匿名性を背景とした誹謗中傷や名誉毀損が社会問題化しています。これまで個人の被害が注目されてきましたが、近年は企業や法人も標的となり、ブランド価値や経済的信用を損なうケースが増えています。

個人にとっては、学校や職場、地域社会に影響を及ぼす事態に発展することも珍しくありません。また、企業にとってもインターネット上の風評被害は、取引先からの信用低下、採用活動への悪影響、株価下落、顧客離れなど重大な結果をもたらすことがあります。

2 名誉毀損とは

刑法230条は「公然と事実を摘示し、人の社会的評価を低下させる行為」を名誉毀損と定義しています。ここでいう「人」には法人も含まれ、企業や団体に対する信用毀損も法的保護の対象となります。

  • 刑事責任:名誉毀損罪(刑法230条)、信用毀損罪(刑法233条)
  • 民事責任:民法709条に基づく損害賠償請求(法人の社会的評価も法的保護対象)

例えば、競合他社や不満を持った利用者がSNSで虚偽の書き込みをした場合、それが企業の信用を毀損すれば違法と判断される可能性があります。また、名誉毀損と似た犯罪に「侮辱罪」(刑法231条)があり、「バカだ」といった抽象的な悪口は侮辱罪にあたる可能性があります。

特にインターネットでは投稿が不特定多数に一瞬で広がるため、被害は大きくなりやすいのが特徴です。

ただし、すべての批判的表現が違法となるわけではありません。刑法230条の2は、公共の利害に関する事実であり、公益を図る目的があり、真実である場合には違法性が阻却されると定めています。

3 典型的な事例

  • 匿名掲示板やSNSでの虚偽のうわさ拡散
  • 動画配信での一方的な誹謗中傷コメント
  • 企業や商品に対する根拠のない評価・レビュー
  • リツイートやシェアによる二次的拡散

インターネットでは一度拡散された情報を完全に削除することは難しい現実があります。そのため、迅速に対応し、情報が拡散されていく前に対応していくことが重要になります。

4 被害に遭った際の対応

誹謗中傷や名誉毀損の被害に遭ったときは、次の手順が重要です。

  1. 証拠を残す
     投稿内容をスクリーンショットで保存し、URLや日時を記録しておきます。
  2. 削除請求
     SNS運営会社や掲示板管理者に削除依頼を行います。任意削除が難しい場合には、法的な削除請求を行います。
  3. 発信者情報開示請求
     投稿者を特定し、損害賠償請求へと進めていくことができます。
  4. 損害賠償請求や刑事告訴
     投稿者が特定できれば、慰謝料請求や刑事告訴が可能です。内容が悪質であれば刑事処罰の対象にもなります。
  5. 危機管理広報
     風評被害は法的対応だけでは不十分な場合があります。そのため、事実関係の迅速な公表など、誤情報の拡散を防ぐための広報対応も不可欠となります。

5 弁護士に相談する意義

誹謗中傷問題は、初動を誤ると証拠が消え、加害者の特定が困難となります。弁護士に相談することで、

  • 適切な証拠保全の方法
  • 削除請求・開示請求の進め方
  • 損害賠償請求や刑事手続の可否
    など、専門的なサポートを受けることができます。

6 リスク予防のためにできること

法人などビジネスの場面においては、こうしたリスクに備えるために、日常的に対策を講じていくことが重要です。

  • ネットモニタリング:自社に関する投稿を定期的に調査する。
  • 危機管理マニュアルの整備:誹謗中傷発生時の初動対応を定める。
  • 弁護士との顧問契約:発信者情報開示や損害賠償請求をスムーズに進めるため、専門的な知見を日常的に確保する。

弁護士は、法的手続の代理だけでなく、削除請求の戦略立案、広報における対応のアドバイスや広報担当者との連携、さらには「予防法務」の観点から企業のリスクマネジメントをサポートしていくことができます。

7 まとめ

インターネットの誹謗中傷や名誉毀損は、誰にでも起こり得る身近な問題です。被害を受けた場合には、証拠の確保と迅速な対応が不可欠です。弁護士への相談は、精神的負担を軽減し、適切な解決へとつながります。

「一人で抱え込まず、専門家に相談する」ことが、最も確実な被害回復の第一歩です。

また、法人・企業に対するインターネット上の誹謗中傷や名誉毀損は、ブランド価値や信用に重大な被害をもたらし、放置すれば事業そのものに深刻な影響を及ぼしかねません。法人・企業においては、広報戦略を含む危機管理対応が不可欠です。そして、専門知識を有する弁護士が関わることで、被害の最小化と再発防止につながります。

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