刑事事件の中でも、交通事故や窃盗、軽微な暴行などにおいて、略式裁判により手続を進めることを検察官から確認されることがあります。しかし、略式裁判と正式裁判がどのように違うのか理解していることは少ないと思います。そこで、略式裁判と正式裁判の違いやメリット・デメリットを説明いたします。
1 略式裁判(略式手続)とは何か
略式裁判とは、簡易裁判所で書面審理のみで行われる裁判手続であり、対象は100万円以下の罰金や科料に相当する事件について行われます。また、被疑者(被告人)が略式手続で進めることに同意した場合にのみ行うことができます。
検察庁のウェブサイトでは、次のように説明されています。
略式裁判とは,検察官の請求により,簡易裁判所の管轄に属する(事案が明白で簡易な事件)100万円以下の罰金又は科料に相当する事件について,被疑者に異議のない場合,正式裁判によらないで,検察官の提出した書面により審査する裁判手続です。
略式裁判(略式手続)の特徴としては、書面審理であるため、裁判所に出廷し、公判期日を経る必要がありません。そのため、早期に事件が終了します。しかし、手続が省略され、簡易的になるというだけであり、被告人には前科がつくことに変わりはありません。また、被疑者(被告人)が認めた場合に限っての書面審理であるため、事実関係等を争うことはできません。
2 正式裁判(公判手続)とは何か
正式裁判とは、いわゆる刑事裁判のことをいいます。そのため、裁判所に出廷し、法廷で冒頭陳述や証拠調べ、被告人質問、論告・弁論などの刑事裁判における手続が行われていきます。このように正式裁判(公判手続)では、刑事裁判における必要な手続を進めていくことになるため、略式裁判(略式手続)と比べると時間を要します。しかし、冤罪など犯行を行っていないのに逮捕・起訴された場合などの否認事件や事実関係に争いがある場合などには、検察官の主張を争っていくことが可能です。
3 略式手続と正式裁判のメリット・デメリット
| 略式手続(略式裁判) | 正式裁判(公判手続) | |
| メリット | 早期に手続が終了する 裁判所への出廷がない | 事実関係等を争える 丁寧に審理される |
| デメリット | 書面審理のため事実関係等を争えない 量刑が適正か確認しにくい | 終了までに時間を要する 裁判所への出廷が必要 |
では、実際に略式手続に進めるか確認された場合には、どのように考えるべきでしょうか。
ポイント①事実に争いがあるか
- 捜査を受け、起訴される事実(被疑事実、公訴事実)に身に覚えがない
- 警察や検察にて作成された調書や実況見分の結果などに認識と異なる内容が含まれている
- 被疑事実や公訴事実に記載されている行為に認識のズレがある
このように捜査、起訴される事実に自身の認識と食い違いがある場合や証拠の内容に認識と異なる内容が含まれている場合には、略式裁判に応じることはせずに、正式裁判で事実関係等を争う必要があることが多いです。
ポイント②前科がつくことのリスク
罰金も前科であることに変わりはないため、職業によっては制限が生じることがあります。特に資格が必要な職業の場合には、法律により、刑罰により制限が生じることがあります。また、この制限も資格ごとに拘禁刑の場合に限るものもあれば、罰金刑以上から生じるものもあります。そのため、資格が必要な職業の場合には、丁寧に判断を検討していく必要が高いです。
ポイント③時間的・精神的な負担
正式裁判の場合には、略式手続に比べると時間を要し、精神的な負担も大きくなりやすいです。そのため、デメリットが少ない場合には略式手続で進めることも検討する必要が高いです。
4 まとめ〜略式手続(略式裁判)は「軽い処分」ではない。正しい判断が重要
略式手続(略式裁判)は早期に手続が終わり、手続負担も軽いです。しかし、「前科がつき」、「事実を争えない」という大きなデメリットがあります。
一方で、正式裁判は、略式手続(略式裁判)に比べると時間を要し、手続負担も大きくなりますが、事実関係を争うことができます。また、事実関係に争いがない場合であっても、犯行に至る経緯やその後の事情といった情状弁護を丁寧に行うことができます。そのため、丁寧な審理を受けることが可能となります。
ここまでで説明をしてきたように、略式手続(略式裁判)で進めるか、正式裁判(公判手続)で進めるかについては、具体的な事件の内容や被疑者(被告人)など関係者の事情により判断が分かれます。そのため、早期に弁護士に相談することが重要になります。
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