
はじめに−養育費をめぐる法改正のポイント
離婚後の子育てにおいて、養育費は非常に重要です。しかし、これまでの制度では、養育費の取決めがあっても実際に支払われないケースも多く、一人親家庭の経済的困窮の原因となっていました。
こうした状況を改善するため、2026年(令和8年)4月1日より、民法等の改正法が施行されます。今回の改正は、養育費の「支払われやすさ」を根本から見直す内容となっています。
本コラムでは、改正のポイントを分かりやすく解説します。
改正の三本柱−何がどう変わるのか
今回の改正は、主に次の3点がポイントになります。
- 先取特権の付与(養育費債権への優先権)
- 法定養育費の新設(暫定的に請求できる養育費)
- 手続の利便性向上(民事執行手続の一本化)
それぞれ順に詳しく見ていきましょう。
① 先取特権−債務名義なしで差押えが可能に
改正前の問題点
これまでの民法では、父母間で養育費の支払いを取り決めていたとしても、支払いがなかった場合に相手方の財産を差し押さえるためには、公正証書・調停調書・審判書といった「債務名義」が必要でした。
つまり、口頭や私的な書面で合意しただけでは、すぐに差押えができず、あらためて家庭裁判所で調停等の手続を経なければなりませんでした。
| 改正前 | 改正後 |
| 父母の私的な取決めがあっても、差押えの申立てに先立って家裁での調停等の手続が必要 | 父母の私的な取決めで作成した文書に基づき、直接差押えが可能 |
改正後―「先取特権」が付与される
今回の改正により、養育費債権に「先取特権(さきどりとっけん)」と呼ばれる優先権が付与されます。これにより、債務名義がなくても、養育費の取決めの際に父母間で作成した文書(私的な合意書など)に基づいて、差押え手続を申し立てることができるようになります。
さらに、この先取特権は「一般の債権者に優先して弁済を受けられる」効力も持ちます。つまり、養育費は他の借金などよりも優先的に回収できるようになります。
| 先取特権が付与される上限額 |
| 月額8万円 × 子の数 (例)子が2人の場合 → 月額16万円まで 子が3人の場合 → 月額24万円まで ※ 改正法施行前(令和8年3月31日以前)に取決めがされていた場合は、施行後(令和8年4月1日以降)に生ずる養育費に限って先取特権が付与されます。 |
「月額8万円という上限があるのでは不十分では?」と感じる方もいるかもしれません。実際の養育費がこれを超える場合には、8万円を超える部分については引き続き別途の手続きが必要です。しかし、まずは私的な文書だけで動けるようになった点は生活を安定させるための大きなメリットです。
法定養育費−取決めなしでも請求できる養育費が新設
改正前の問題点
これまでは、養育費の取決め(父母の協議や家庭裁判所の手続)がなければ、養育費を請求すること自体ができませんでした。協議がまとまらないケースや、急いで離婚しなければならない状況では、子どもへの支援が途絶えてしまうリスクがありました。
| 改正前 | 改正後 |
| 父母の協議や家庭裁判所の手続により養育費の額を取り決めなければ、養育費を請求できない | 取決めがなくても、離婚時から一定額の「法定養育費」を請求できる(新設) |
改正後―「法定養育費」の新設
今回の改正により、離婚のときに養育費の取決めをしていなくても、離婚のときから引き続き子どもの監護を主として行う親は、他方の親に対して、暫定的に一定額の養育費を請求できるようになります。
| 法定養育費の額 |
| 月額2万円 × 子の数 (例)子が2人の場合 → 月額4万円 子が3人の場合 → 月額6万円 ※ 改正法施行後(令和8年4月1日以降)に離婚したケースにのみ適用されます。 |
発生期間と終了条件
法定養育費は離婚の日から発生し、以下のいずれか早い日まで続きます。
- 父母が養育費の取決めをした日
- 家庭裁判所における養育費の審判が確定した日
- 子どもが18歳に達した日
毎月末に、その月の分を支払う必要があります。また、この法定養育費が支払われない場合も、差押え手続を申し立てることができます。
支払えない場合はどうなる?
支払義務を負う親が、支払能力を欠くため支払いができないこと、または支払いにより自らの生活が著しく窮迫すること(生活保護受給中など)を証明した場合は、全部または一部の支払いを拒むことができます。
なお、これはあくまで「暫定的・補充的」な制度です。
父母が協議または家庭裁判所の手続によって、各自の収入等を踏まえた適正な額の取決めをすることが重要です。
③ 手続の利便性が向上−1回の申立てで一連の手続が可能に
家庭裁判所による収入情報の開示命令
養育費に関する裁判手続では、各自の収入を基礎として養育費の額を算定します。今回の改正では、手続をスムーズに進めるために、家庭裁判所が当事者に対して収入情報の開示を命じることができるようになります。
民事執行手続の一本化(ワンストップ化)
養育費を請求するための民事執行の手続において、地方裁判所に対する1回の申立てだけで、以下の一連の手続を申請できるようになります。
- (1)財産開示手続:養育費の支払義務者は、その保有する財産を開示しなければならない
- (2)情報提供命令:市区町村に対し、支払義務者の給与情報の提供を命じる
- (3)債権差押命令:判明した給与債権を差し押さえる
これまでは各手続を個別に進める必要がありましたが、改正後は一度の申立てでこれらをまとめて行えるようになります。手続の負担が大幅に軽減され、実効的な回収がしやすくなります。
| 施行日・適用対象 |
| 施行日:令和8年(2026年)4月1日 ・法定養育費(暫定的な養育費):施行後に離婚したケースのみに適用 ・先取特権:施行前に取決めがある場合は、施行後に生ずる養育費から適用 |
まとめ
今回の民法改正のポイントを整理すると、次のとおりです。
- 【先取特権】私的な文書があれば、債務名義なしで差押えが可能に(上限:子1人あたり月額8万円)
- 【法定養育費】取決めなしでも、離婚時から月2万円×子の数を請求可能(施行後の離婚が対象)
- 【手続の利便性向上】1回の申立てで財産開示・情報提供・差押えの一連手続が完結
これらの改正は、養育費の未払い問題を解消するための重要な一歩です。しかし、法定養育費は暫定的・補充的な制度に過ぎません。子どもの将来を守るためには、適正な額の養育費についてきちんと取り決めておくことが最も大切です。
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養育費に関するお悩みは、個々の状況によって対応が大きく異なります。
- 離婚後に養育費が支払われず困っている
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